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東京地方裁判所 昭和57年(特わ)1907号 判決 1982年12月01日

裁判所書記官

久保田堅蔵

(被告人の表示)

(一)

本店所在地 東京都墨田区太平四丁目一三番四号

株式会社北村製作所

(右代表者代表取締役北村壽美子)

(二)

本籍 東京都墨田区太平四丁目二一番地の二

住居

東京都墨田区太平四丁目一三番四号

会社役員

北村壽美子

大正一一年二月六日生

主文

一  被告人株式会社北村製作所を罰金二、四〇〇万円に、被告人北村壽美子を懲役一年二月にそれぞれ処する。

一  被告人北村壽美子に対し、この裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人株式会社北村製作所(以下「被告会社」という。)は、東京都墨田区太平四丁目一三番四号に本店を置き、精密工作機械の製造等を目的とする資本金二、〇〇〇万円の株式会社であり、被告人北村壽美子(以下「被告人」という。)は、被告会社の専務取締役として同会社の経理業務等を統括していたものであるが、被告人は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上の一部を除外し、製造原価を水増し計上するなどの方法により所得を秘匿したうえ、

第一  昭和五三年四月一日から同五四年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億二、二〇五万八、一一七円あった(別紙(一)修正損益計算書参照)のにかかわらず、同年五月三〇日、東京都墨田区業平一丁目七番二号所在の所轄本所税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が七、五三八万六、一〇七円でこれに対する法人税額が二、七七六万三、六〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和五七年押第一四六九号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額四、六四二万一、一〇〇円と右申告税額との差額一、八六五万七、五〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)を免れ、

第二  昭和五四年四月一日から同五五年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が二億七、二〇六万三、二一九円あった(別紙(二)修正損益計算書参照)のにかかわらず、同年五月三〇日、前記本所税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一億三、五〇二万四、四六六円でこれに対する法人税額が五、一九八万一、七〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(同押号の2)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額一億〇、六七八万九、〇〇〇円と右申告税額との差額五、四八〇万七、三〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)を免れ、

第三  昭和五五年四月一日から同五六年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が二億〇、三八六万二、〇九九円あった(別紙(三)修正損益計算書参照)のにかかわらず、同年六月一日、前記本所税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一億六、九〇四万六、〇五〇円でこれに対する法人税額が六、四八一万三、〇〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(同押号の3)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額七、八七三万六、六〇〇円と右申告税額との差額一、三九二万三、六〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)を免れ、

たものである。

(証拠の標目)

判示事実全般につき

一  被告会社代表者兼被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書

一  北村隆、佐藤勝美(三通)、北村英貞、吉野房夫の検察官に対する各供述調書

一  東京法務局墨田出張所登記官作成の登記簿謄本二通

判示各事実ことに過少申告の事実及び別紙(一)ないし(三)修正損益計算書の公表金額につき

一  押収してある法人税確定申告書三袋(昭和五七年押第一四六九号の1ないし3)

判示各事実ことに別紙(一)ないし(三)修正損益計算書の当期増減金額欄記載の内容につき

一  本所税務署長作成の証明書(別紙(一)ないし(三)修正損益計算書の勘定科目中(一)の<46>、<48>、(二)の<5>、<44>、<45>、<47>、(三)の<5>、<43>、<45>)

一  収税官史作成の売上高調査書(同(一)ないし(三)の各<1>。以下の調査書も収税官史の作成したもの)

一  売上高調査書(その他所得)(同(一)ないし(三)の各<1>)

一  製品棚卸高調査書(同(一)ないし(三)の各<3>、<7>)

一  当期商品仕入高調査書(同(二)の<4>)

一  材料棚卸高(製造原価)調査書(同(一)ないし(三)の各<5>)

一  当期材料仕入高(製造原価)調査書(同(二)、(三)の各<5>)

一  当期買入部品仕入高(製造原価)調査書(同(二)、(三)の各<5>)

一  賃金賞与(製造原価)調査書(同(一)ないし(三)の各<5>)

一  雑給(製造原価)調査書(同(一)、(二)の各<5>)

一  厚生福利費(製造原価)調査書(同(一)ないし(三)の各<5>)

一  外注加工費(製造原価)調査書(同(一)ないし(三)の各<5>)

一  退職金(製造原価)調査書(同(三)の<5>)

一  通信費(製造原価)調査書(同(三)の<5>)

一  水道光熱費(製造原価)調査書(同(三)の<5>)

一  旅費交通費(製造原価)調査書(同(一)、(二)の各<5>)

一  減価償却費(製造原価)調査書(同(二)、(三)の各<5>)

一  仕掛品棚卸高(製造原価)調査書(同(一)ないし(三)の各<5>)

一  給料手当調査書(同(一)ないし(三)の各<5>)

一  厚生福利調査書(同(一)の<12>、(二)の<11>、(三)の<12>)

一  公租公課調査書(同(一)の<21>、(二)の<19>、(三)の<20>)

一  販売手数料調査書(同(一)の<22>、(二)の<20>、(三)の<21>)

一  販売手数料調査書(その他所得)(同(一)の<22>、(二)の<21>、(三)の<21>)

一  交際接待費調査書(同(一)の<23>、(二)の<21> (三)の<22>)

一  雑費調査書(同(三)の<32>)

一  検察事務官作成の捜査報告書(一丁のもの)(同(三)の<32>。以下の捜査報告書も検察事務官の作成したもの)

一  受取利息調査書(同(一)の<34>、(二)の<32>、(三)の<33>)

一  雑収入調査書(同(二)の<35>、(三)の<36>)

一  支払利息調査書(同(三)の<37>)

一  特別償却費調査書(同(一)の<46>、(二)の<45>)

一  貸倒損失調査書(同(一)の<47>)

一  債券償却特別勘定調査書(同(一)の<61>)

一  価格変動準備金繰入額調査書(同(一)の<48>、(二)の<44>、<47>、(三)の<43>、<45>)

一  役員賞与損金不算入調査書(同(一)、(二)の各<62>、(三)の<56>)

一  捜査報告書(二四枚つづりのもの)(同(一)、(二)の各<62>、(三)の<62>)

一  交際費の損金不算入額調査書(同(一)の<55>、(一)の<53>、(三)の<51>)

一  未納事業税認定損調査書(同(一)、(二)の各<63>、(三)の<57>)

一  捜査報告書(三枚つづりのもの)(同(一)、(二)の各<63>、(三)の<57>)

をそれぞれ総合して認める。

なお、弁護人は、本件公訴事実のほ脱額確定につき種々問題があると主張するが、その主な点は次のとおりである。すなわち、(1)検察官主張の売上高のうち、社員が横領した分については被告人において認識がなかった。(2)被告人は鈴木久司に支給した賞与が税法上役員賞与に当たることを知らなかった。(3)鈴木製作所に対する売掛金は、鈴木製作所が昭和五四年三月期中に倒産したのであるから、その後の回収状況等を勘案し、右事業年度中において貸倒処理を認めるべきである。しかも、この点は被告人の認識外の事柄である。(4)交際費はいわゆる社用族的支出から営業上必要不可欠のものまで広範囲にわたり、また、宣伝費、社員厚生費等との区別が困難であるうえ、被告人にはこれらの認識もなかったから、交際費損金限度超過額はほ脱額から除外すべきである。(5)ほ脱犯は確定申告にかかる法人税の額を免れることにより成立するものであるから、その後に生じた青色申告承認取消しに伴う所得増加額はほ脱額には含まれない。(6)雑費中検察官が脱税工作費として損金に計上すべきではない、と主張する金額は損金として認めるべきであると主張する。

しかしながら、関係証拠によると、(1)については、実際売上があるのにこれを社員らが自己費消分として公表売上高から除外していたことを被告人において認識し許容していたものであって、被告人の故意に欠けるところはない。また(2)については、ほ脱犯の成立に必要な故意の内容として当該賞与の益金性の認識があることを要しないと解すべきであり、(3)については、被告人において右売掛金を当該事業年度の貸倒損失として計上することは時期尚早であると認識しながら、あえてこれを損金計上したものであり、(4)については、被告人は、交際費が損金算入の限度額を超過していることを知っていたことは明らかであるから、所論の主張はいずれも理由がない。さらに(5)については、被告人において本件青色申告承認取消しの前提となる事実を認識していたこと、すなわち各年の帳簿書類に取引を隠ぺい、あるいは仮装して記載したことを認識していたことは、関係証拠上明らかであり、したがって行為時において右の結果として後日青色申告の承認を取り消されるであろうことは当然認識できることというべきであるから、右承認取消しに伴う所得増加額がほ脱額に含まれることは明らかである(最高裁判所昭和四七年(あ)第一三四四号、同四九年九月二〇日第二小法廷判決、刑集六巻六号二九一頁)。(6)については、架空外注加工費を計上するため架空の請求書及び領収書を作成してもらったことなどの報酬として支給された本件のごとき金員は法人税法二二条三項所定の損金と認められないことは明らかである。以上のとおりであるから、弁護人の主張はすべて理由がない。

(法令の適用)

一  罰条

(一)  被告会社

判示第一、第二の所為につき、昭和五六年法律第五四号による改正前の法人税法一五九条一、二項、一六四条一項、判示第三の所為につき、右改正後の法人税法一五九条一、二項、一六四条一項

(二)  被告人

判示第一、第二の所為につき、行為時において右改正前の法人税法一五九条一項、裁判時において右改正後の法人税法一五九条一項(刑法六条、一〇条により軽い行為時法の刑による。)、判示第三の所為につき、右改正後の法人税法一五九条一項

二  刑種の選択

被告人につき、いずれも懲役刑選択

三  併合罪の処理

(一)  被告会社

刑法四五条前段、四八条二項

(二)  被告人

刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(最も重い判示第三の罪の刑に加重)

四  刑の執行猶予

被告人につき、刑法二五条一項

(量刑の理由)

被告会社は、被告人の夫北村隆が終戦後個人で始めた機械の修理、精密工作機械の製造業を法人化して設立した有限会社北村製作所を昭和三二年八月六日株式会社に組織変更したものであって、被告人夫婦が資本金の半分以上を出資している同族会社であるが、本件は右被告会社において、昭和五四年三月期、同五五年三月期、同五六年三月期の三事業年度にわたり合計八、七三八万円余の法人税をほ脱した事案であり、正規の税額に対するほ脱の割合は、それぞれ四〇・二パーセント、五一・三パーセント、一七・七パーセントに上っている。ところで、被告人は、当時、被告会社の専務取締役として経理、財務、税務等を統括していたところ、同社が昭和四八年のいわゆるオイル・ショックの影響から従業員数人を整理解雇せざるを得ない仕儀に追い込まれた経験から、不況に備えて簿外資金を蓄積する必要を感じ本件犯行に及んだ旨供述するが、そのような事情が本件脱税行為を正当化する理由とならないことは多言を要しないうえ、被告人は、右の少なくとも数年前から申告利益をどの程度に押さえるかを経理担当者に指示して脱税を図っていたものであり、また本件ほ脱所得の一部を幹部社員や経理担当者の簿外給与として支給したり、自らも費消しており、必ずしも本件脱税が私利私欲に基づかない動機によるものとは認められない。

また、本件ほ脱の態様をみても、被告人は、被告会社の代表者であった北村隆に何らはかることなく、各期を通じて架空経費を計上したうえで試算した利益を更に押さえるよう具体的な金額で指示しているほか、架空の取引先のゴム印、代表者印を利用したり、知人に報酬を払って架空の請求書や領収書を書いてもらい、さらには手形取立分の一部や宮城工場の架空経費相当分を仮名の預金口座を設けて簿外預金に回し、売上除外分について伝票を破棄し売上帳から消去するなどの方法をとり、多くの勘定科目について経理操作を加えており、悪質な犯行というほかはない。

しかしながら、他方、被告人らは本件発覚後本件犯行を認めるとともに、被告会社において修正申告をし、国税、地方税を通じ納税を了するなど反省の態度を示しており、当公判廷でも今後再犯に及ばない旨誓約していること、北村隆は、顧問弁護士らの指導の下に経理態勢を改善する予定であり、その際被告人ら本件関与者の会社に対する責任を明らかにし、再び本件のような事態が発生しないよう処置する旨供述していること、被告人が、道路交通法違反罪により罰金刑に処せられたことがあるほか、被告人らには前科前歴がないこと、その他被告会社の近時の収支状況、被告人の家庭の状況等被告人らに有利な事情も認められるので、これらの情状をも併せ考慮して、主文のとおり刑を量定した。

(求刑 被告会社罰金二、八〇〇万円、被告人懲役一年二月)

よって主文のとおり判決する。

出席検察官 神宮寿雄

弁護人 島田種次

(裁判長裁判官 小泉祐康 裁判官 羽渕清司 裁判官 園部秀穂)

別紙(一)

修正損益計算書

株式会社 北村製作所

自 昭和53年4月1日

至 昭和54年3月31日

<省略>

<省略>

<省略>

別紙(二)

修正損益計算書

株式会社北村製作所

自 昭和54年4月1日

至 昭和55年3月31日

<省略>

<省略>

<省略>

別紙(三)

修正損益計算書

株式会社北村製作所

自 昭和55年4月1日

至 昭和56年3月31日

<省略>

<省略>

<省略>

別紙(四)

税額計算書

<省略>

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